仙台野球『技術と体』の講習会2012で田中稔先生(東北労災病院スポーツ整形外科部長)が行った方法です。

肩甲骨(けんこうこつ)の機能評価

Scapula-spine distance(Scapula positioning)

肩甲骨内縁と脊柱間距離の左右差と同時に、肩甲骨下角の高さの左右差を見る。 Neutral positionでの肩甲骨の位置異常は、その後の運動に大きな支障をきたす。 肩甲骨下角はT7レベルにあり、非投球側(または症状のない側)を基準にして位置のずれを評価。
1cm 以上の差を有意とする。
投球側の肩甲骨は外転傾向となるため、軽度の外転のみであれば有意としない。

Scapular retraction test

手掌を後頭部にあて、肘を後方に引かせた時の肩甲骨内転の左右差をみる。
投球時の肩甲骨の動作不良(特に内転制限)は肩・肘障害に直結するため重要な評価項目。

Scapular stability test

下垂・内旋位で同側の肩甲骨内側縁を触知しながら前腕に抵抗をかけたまま外旋させ、肩甲骨の異常な内転運動をみる。 肩甲骨機能が正常であれば、肩甲骨はその位置のまま動かず出力できるが、Neutral positionでの肩甲骨の位置異常などがあると肩甲骨はその位置で土台として安定化できないため、出力できる位置への移動が起こる。
肩甲骨の使い方に個人差があるため、基本的には非投球側を基準にして判断する。

腱板(けんばん)・関節唇(かんせつしん)評価

SLAP test

肩90°前方挙上・水平内転、前腕回内位で抵抗をかけた際の痛みや脱力の有無をみる後上方関節唇損傷の検査。 SLAPの症例では、前腕回内位で痛みが強く、前腕回外位で痛みが軽減・消失する傾向がある。

SSP/ISP test

腱板断裂の評価。SSP testは肩甲骨面で肩外転30°付近での抵抗運動(full-can test)、ISP testは肩外転60°付近で前腕回内位での抵抗運動(empty-can test)や下垂位での外旋での痛みや脱力の有無を評価。

impingement sign

肩外転90°付近での外旋・内旋運動での痛みやひっかかりの有無を評価。

肩関節機能評価

Internal rotation from 3rd to 2nd position

肩後方関節包や後方筋群の筋緊張の有無の評価。 肢位の変化に呼応した内旋可動域の変化を応用したもので,肩関節90°屈曲位(IR3rd position)から90°外転位(IR2nd position)への肢位の変化に伴う内旋角度の変化を非投球側と比較し評価する。肩関節後方タイトネスなどがあると肢位の変化に呼応した内旋可動域の増大がみられなくなる。
非投球側の変化量を基準にして、10°以上の差を陽性とする。

HERT (Hyper external rotation test)

仰臥位で肩甲骨面を逸脱したposition(肩水平伸展位)での肩外転・外旋を強制した際の疼痛の有無を評価する。 投球動作では、常に肩甲骨面(zero position)で上肢を動かす訳ではなく、瞬間的に肩水平伸展位をとる場面がしばしば見られる。肩甲骨面(zero position)では無症状でも肩水平伸展位では疼痛が生じる場合は投球動作で疼痛が生じる可能性が高いと判断する。投球開始時期を判断する際に重要な検査。

肩甲帯・体幹機能

CAT (Combined abduction test)

仰臥位で肩甲骨を固定し、他動的肩外転を行い可動域の左右差を判定する。 正常であれば、上腕骨の骨軸が体幹と平行の位置まで動く(柔らかい選手では耳に接触)。肩関節内に解剖学的異常がない選手の場合、相反抑制反射でこの検査が陰性となることより肩甲帯周囲筋の筋緊張など筋組織の影響が大きいものと考えている。

HFT (Horizontal flexion test)

仰臥位で肩甲骨を固定し、他動的肩水平内転を行い可動域の左右差を判定する。 正常であれば、検側の肘が体幹正中(あごの位置)まで動く(柔らかい選手では対側のベッドに手が接触)。この検査もCATと同様に、肩甲帯周囲筋の筋緊張など筋組織の状態を評価しているものと考えている。

EPT (Elbow push test)

座位(足は床から離れた状態)とし、体幹前面で肘90度屈曲にて腕を組ませ肘を後方に押した際の抵抗力を判定する。肩甲帯機能不全があれば、瞬間的な脱力現象が見られる。 肩甲骨のpositioning不良例で陽性となることが多く、不良位置で肩甲骨を安定化させることができないための脱力であるため、1~2秒かけてゆっくり抵抗をかけた場合はその間に肩甲骨の位置が調整されるため脱力が生じない。
選手に肩甲骨機能低下を実感させるのに最適な検査。

僧帽筋下部筋力

腹臥位で肘伸展、母指を天井に向けて上肢を挙上し、そのpositionを保持させ下方に抵抗をかけその筋力を判定する。 明らかな筋力低下があれば判定は容易であるが、軽度の筋力低下は上肢の抵抗だけでなく下肢・体幹の異常な動きに注意して判定する。筋力低下がある場合は上肢の保持のため下肢が浮き上がったり、体幹がよじれたりという異常な動作が見られる。 基本的に非投球側との左右差で判断する。 僧帽筋下部は解剖学的位置関係より棘下筋のさらに近位(体幹側)に位置し、cocking後期の肩甲骨内転やボールリリースからフォロースルーでの肩甲骨上方回旋・外転位での肩甲骨固定に重要な働きをしていると考えられる。僧帽筋下部の機能低下は肩甲骨内転制限やボールリリースから減速期での肩甲骨の安定性に影響し、結果として棘下筋へのストレスを増大させている可能性があると考えている。

プロフィール

田中稔先生

東北労災病院 スポーツ整形外科部長
東北楽天ゴールデンイーグルス チームドクター
専門分野:肩関節疾患、スポーツ障害
所属学会、学位・認定等:日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会スポーツ認定医
 
東北労災病院スポーツ整形外科

肩・肩甲帯機能(12項目)の評価基準
肩甲骨機能評価(3項目)、腱板・関節唇評価(3項目)
肩関節機能評価(2項目)、肩甲帯・体幹機能(4項目)
肩・肩甲帯機能の評価
体幹・股関節・足部機能(6項目)の評価基準
体幹機能評価(2項目)、股関節機能評価(3項目)、足部機能評価(1項目)
体幹・股関節・足部機能の評価

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